「すみません、桃ちゃんとつい話し込んでしまって」
みんなが揃う応接室に戻り、望愛さんが頭を下げるけれど、
「いやそれはかまわんのだ」
おじいさまに気にしている様子はない。

「何かありましたか?」
わざわざおじいさまが呼んでいるってことは用事があるのだろうと思い、私も聞いてみた。

「お客さんがね、みえるんですって」
「お客様?」
教えてくれた母の困ったなって顔を見て、私も不安になる。

「客というほどのものではないんだ。ほら、来週から丸星デパートの息子がうちに来ることになっていただろう。せっかくだから桃に紹介しておこうと思ってな」

丸星デパートの息子?
丸星デパートは全国規模の老舗デパートチェーンで、今はレジャー産業にも進出してかなり手広く事業をやっている会社。もちろん規模では一条に及ばないけれど、日本有数の企業であることに違いはない。
そう言えば、来週から2カ月間の研修でうちのホテルに来る人がいるって聞いていた。

「でも、週明けから秘書課で研修って聞いているのに、今わざわざ顔合わせをする意味ってあるんですか?」

出来るだけ、特に職場で素性を隠しておきたい私はつい不満が顔に出た。