プププ。
目の前の電話が鳴ったのは数分後のこと。

「はい、秘書室高井です」
「社長室の応援にはいれるか?」
「・・・」

電話をかけてきたのは隼人だった。
きっと、川村唯が「高井先輩が意地悪するんです」とか言って泣きついたのだろう。

「高井さん?」
「・・・わかりました」
上司に言われれば、悔しいけれどそう答えるしかない。

川村唯も私と同じく縁故での採用。
私自身も一条の娘であることは隠しながら、昔から付き合いのある高井家の娘として採用してもらったから偉そうなことは言えないが、川村唯はヒドイ。
どこかの企業の社長令嬢らしいけれど、自分からはまったく仕事をしようとしない。
荷物を運べと言えば、服が汚れるとか爪が剥がれるとか言い訳をしながら同僚に押し付けるし、その上上司にはこれ見ようがしに成果をアピールする。
本当にたちが悪いんだから。

「望愛さんがいた頃からのデータも残っているはずだから、難しい作業ではないだろ?」
不満そうに電話を切った私が気になったのか、隼人が寄ってきた。

「そうですね」

別に作業を受けることが不満なわけではない。
私はただ、川村唯が気に入らないのだ。

「何か困ったことがあれば言ってくれ」
「はい」