「桃、もう一口だけ食べて」
「えー」

プッと頬を膨らませて抵抗するけれど、隼人に通用するはずもなく、私は渋々苦手な野菜を口に運ぶ。

「ほら、薬」
「はーい」

一緒に病院へ行った後、私は自宅に帰り、隼人もなぜか我が家にやって来た。

「ねえ、本当にここで寝るの?」
「ああ、もちろん」

病院で私の妊娠経過を聞き心配になった隼人は、父さんを説得してしばらくの間家に泊まる許しをもらった。
隼人がうちにいること自体は父さんもまんざらでもない様子で、なぜかニコニコとしている。

「隼人、仕事が忙しんじゃないの?」
「大丈夫、順調に引き継いでいるよ」

こういう時の隼人は何を言っても引いてはくれないのを知っているから、私も無駄な抵抗はしない。
それに、私自身この生活に少しだけ幸せを感じていた。
愛する人と、その人の子を育みながら、守り育ててくれた両親と共に過ごすのは、とても温かで心地いい時間。
今まで誰にも言えず抱え続けた秘密の関係も公になり、心が軽くなった分気持ちも楽になった。
隼人や父さんや母さん、時にはお兄ちゃんまでがやかましく言う小言も、大切にしてもらっている証拠だと思えるようになった。

「桃、今日はお前の好きなエクレアを買ってきたぞ」
ほらまた、今度は玄関から父さんの声がする。

このままではいつかブタになってしまいそうだなと心配しながら、私はみんなから愛させる幸せをかみしめた。