このホテルは一条プリンスホテルとは違って純和風の趣のある建物。
大きくはないし、新しくもないけれど、古き良き日本のたたずまいを残した建築や手入れの行き届いた庭にはファンも多い。
そう言えば、七五三も成人式の時もここでお祝いしてもらったんだ。
どちらもきれいな着物を着せてもらって、父さんも母さんも喜んでくれたっけ。

グスン。
自業自得とは思いながら、両親と別れる寂しさから込み上げるものがあり私は目頭にハンカチをあてた。

本当に私は親不孝な娘だ。
こんなに大切に育ててもらったのに、何一つ恩返しができていないんだから。
それでもこのまま私がここに残れば、妊娠はすぐに知れることになる。
もちろん相手が誰かなんて言うつもりは無いけれど、隼人の耳にだって届くだろうし、知ってしまえば黙っているような隼人ではない。きっとすべてが明らかになり、隼人の人生は変わってしまう。
特に今、新しい生活を始めようとしている隼人の負担になるようなことはしたくない。
だから、私は一人で逃げることにした。