「嫌です」

この段階で、私は意固地になっていた。
別にお兄ちゃんの側で仕事をすることがそこまで嫌なわけではない。
ただ、いつも隼人の隣りにいる川村唯が気に入らなかった。
そして、私の言い分を聞いてくれない隼人に腹が立った。
もちろんこれは仕事上のこととわかっていても、隼人が私よりも川村唯を選んだような気になっていた。

「いい加減にしてくれ。これは遊びじゃない、仕事だぞ」
「わかっています」
「じゃあ、指示に従ってくれ」

どうしたんだろう。
なぜ隼人は川村唯の言い分ばかりを聞くんだろうか。
私の方が絶対に仕事ができるのに。

「それでも嫌だと言ったら?」

少しだけ甘えたい気持ちもあって、隼人に聞いた。
ここまで言うからには引いてくれないかもしれないが、それでも私は納得できなかった。

「これは相談じゃない。上司としての命令だ。従えないというのならどこかに移ってもらうしかない」
「えっ」
瞬間的に、隼人を見つめた。

そこまでして私を社長室に置いておきたいのは、川村唯を手元に置きたいから。それ以外に理由は見つからない。
確かにここしばらくの私達は、忙しさもあって会えていなかった。
会社では川村唯がくっついていて話すこともできず、メールやメッセージも仕事の邪魔になるのではと遠慮していた。
どうやらその間に見えない距離ができてしまったらしい。

「このまま社長室での勤務を続けてほしい」
「・・・わかりました」

悔しいけれど、今のお兄ちゃんを放り出して逃げ出すことはできない。
それに、仕事を辞めればすぐにお見合い話を持ってこられるはずだから、退職もできない。
結局私は承諾するしかなかった。