「こらこら、朝からこんなところで喧嘩しないでちょうだいよ」
私の背中をポンと叩き、声をかけてきたのは秘書課の明子先輩だった。

「おはようございます」
咄嗟に口元を緩め挨拶をする。

「嫌だ明子先輩、喧嘩なんてしていませんよ」

川村唯はいつもの笑顔で明子先輩の腕をとる。
こうやって上手に相手との距離を縮められるのが川村唯の長所だと思う。
私にはないかわいらしさを持っているし、実際人好きのする笑顔だ。
でも、私は彼女の本性を知っているから素直には受け入れられない。

「高井さん、眉間にしわが寄っているわよ」

「すみません」
明子先輩に指摘され、何とか表情を緩める。

この状況って、知らない人が見れば私が川村唯をいじめているように映るんだろうな。
そう思うとすごく悔しいが、これも私の性格の悪さと諦めるしかないのか。

「ほら、朝礼に遅れるから行きましょう」

川村唯に腕をとられたままの明子先輩とともに、私は秘書課へ向かうことになった。