普段から私はあまりメイクをしない。
もちろん眉とファンデーションのベースメイクくらいはするが、あまりこてこてと塗り重ねるのは好きではない。

「社長秘書室での勤務は来客も多いですから、もう少し身だしなみに気を付けてもらわないと」
「はあ?」
私は咄嗟に睨んでしまった。

仕事のできない自分のことは棚に上げて、人に意見するなんて図々しい。そう言うセリフは一人前になってから言いなさいよ。そう叫びたいのを、私は必死にこらえた。

「そう言えば高井さん、これから私は課長のサポート業務をすることになったので、社長室のフォローはできなくなると思うんですよ」
「課長のサポート?」
「ええ」

何よ、それ。私は何も聞いていないけれど。
大体、川村唯に仕事のフォローを期待してはいないし、社長秘書の業務だって一人でやるつもりだ。
でも今は優也さんの指導もしているからいつもよりも手が回らないのに、隼人は何を考えているんだろう。

「まあ課長自身が取締役たち並みに忙しいですからね、スケジュールの管理や外部からの問い合わせに対応する人間は必要になると思うんです」
「まあそうでしょうね」

隼人の忙しさは私だって知っているし、サポートを付けるのに文句を言うつもりは無い。
ただそれが川村唯だってことが気に入らないだけ。

「課長から外部からの電話の対応は任せるからって言われて、今は課長のスケジュールも共有しています」
「へー」
それは良かったわね。

自分でも、表情がきつくなっている自覚がある。
それがどういう感情かと聞かれるとうまくは答えられないが、とにかく面白くない。