「仕事の電話?」

電話を切った俺の表情が曇ったのを見て、桃が心配そうな顔をした。

「いや、プライベートだ」
「そう」

本当ならもっと聞きたいことはあるはずなのに、桃は細かな詮索をしない。
俺のほうも事情があるからそれ以上話すことはできない。
お互いに遠慮しすぎて言いたいことも言えない関係がいかにも俺達らしい。
ただ、こういう積み重ねが2人の溝になっていくことが、この時の俺にはわかっていなかった。