エンジンを止め、乗客が降りるざわめきを聞きながら、恵真はようやく緊張から解き放たれてぼう然としていた。

(え、ちょっと待って。マイクロバーストアラート?そんな中を下りたの?)

積乱雲などから爆発的に吹き降ろす気流が、地表に衝突して吹き出す破壊的な気流をダウンバースト言うが、その水平的な広がりが4km以上をマクロバースト、4km以内をマイクロバーストと呼んでいる。

そしてマクロバーストより、マイクロバーストの方が強い風を伴うことが多いと言われていた。

台風の強風域ほどの強い風が、突然無風になるのとほぼ同等の風の変化が起こり、失速等による墜落の危険もあり得る厳しい状況になる。

(それを一発で下りるなんて…。それにあのランディング。一体何がどうなってたの?ほんの一瞬の間に、セオリー通りに風上から下りて、しかもグイッと機体を滑走路に正対させて…。私の1秒は、佐倉さんにとっては3秒なの?すごい、本当にすごかった)

自分では作り出せない初めての感覚を思い出し、余韻に浸っていると、隣から、あれ?という声がした。

「ちょっと期待してたんだけどなあ、ナイスランディングって言葉。甘かったかな、俺」

斜めに恵真に顔を向けながら、大和がいたずらっぽく笑っている。

「ああああああ、ナナナナナ、ナイスランディング!」

焦る恵真に、大和はクスッと笑う。

「そんなにいらない。でもありがとう。お前もな、ナイスランディング!」

そして大和は恵真の頭にポンと手を置いた。