「もう本当にお母様ったら。私を差し置いてずーっと朱里さんとおしゃべりして…」

自分の部屋に朱里を招き、二人きりになると聖美は口をとがらせた。

「ふふ、素敵なお母様ね」
「私がひとりっ子なので、とにかく何でも干渉してくるのが困りもので…」
「それは聖美さんが可愛くて仕方ないのよ。でもお母様、聖美さんがお嫁に行ったらきっと寂しがるわね」

すると聖美は頬をほんのり赤らめてうつむく。

朱里はふふっと笑って話を続けた。

「結婚の準備は順調なの?」
「あ、いえ、その。まだすぐにではなくて、瑛さんが大学を卒業して仕事が落ち着いた頃にと…」
「え、そんな先なの?もう、さっさと結婚しちゃえばいいのに。ねえ?」
「いえ、そんな。あの、朱里さん」
「ん?なあに?」

聖美は、言うべきか迷ったように言葉を止めた。

「何か心配なことでもあるの?」

朱里が顔を覗き込む。

「いえ、あの…。朱里さん、私は本当に瑛さんと結婚してもいいのでしょうか?」

え?と、朱里は首をかしげる。

「当たり前じゃない!どうしてそんなこと言うの?」
「その…。瑛さんは、私と一緒にいても楽しそうには見えないのです。にこやかにお話してくださるし、スマートにエスコートもしてくださいます。私を大切に扱ってくださっているのは良く分かります。でも、瑛さんはそれで幸せなのでしょうか?」

朱里は視線を外して考えてから、聖美に向き合った。

「聖美さん、あき…桐生さんは、ちゃんと聖美さんとのことを考えていると私は思います。桐生のおじ様から最初に聖美さんのお話を聞いたあとも、お会いするかどうか真剣に考えていました。今は、聖美さんの人生を自分が担う覚悟を持って、聖美さんに接していると思います。だから単純に楽しさが前面に出ている訳ではないのかもしれません。だけど、どうか信じてあげてください。彼はきちんと聖美さんに向き合っています」

聖美はじっと朱里の言葉に耳を傾け、しっかりと頷いた。