そしていよいよ、地元の吹奏楽部員との合同演奏となった。

司会の女の子達が話し出す。

「この小さな町では、本来の吹奏楽の曲が演奏出来ません。中学生4人高校生6人と、合わせても10人にしかならないからです。コンクールに出場したこともありません。けれど今日、私達の夢が叶います。このステージで、プロの方々と一緒に演奏させて頂けるのです。たった1度きりの演奏ですが、感謝の気持ちを込めて、私達の精一杯の演奏をお届けします。どうぞお聴きください」

拍手の中、10人の子ども達がステージに上がり、深々とお辞儀をした。

それぞれ椅子に座ると、気持ちを整える。

赤坂は一人一人に、大丈夫だと頷いてみせた。

ゆっくり間を取ってから、スッと指揮棒を構える。

皆は一斉に楽器を構えた。

朱里が息を詰めて見守る中、子ども達は堂々と演奏する。

(凄い…さっきのゲネプロと全然違う)

指揮にテンポを合わせるのではなく、自分の表現を大事に、一人一人が心を込めて吹いている。

赤坂も、演奏に合わせてタクトを振っていた。

(みんなの気持ち、伝わってくるよ。暖かい夕陽、綺麗な風景、優しい人々、大切な故郷)

いつしか朱里は涙を流していた。

真っ直ぐで純粋な、この子達にしか出来ない演奏。
なんと尊いのだろう。

心に染み渡るような彼女達の演奏を、朱里は胸に刻み込んだ。

ゆっくりと曲が終わり、客席からほう…とため息が漏れたあと、大きな拍手が起こる。

赤坂は満面の笑みで彼女達に頷き、一人一人を称えて立ち上がらせた。

10人の女の子達は、ホッとしたような笑顔でお辞儀をする。

客席の拍手は、しばらく鳴り止まなかった。