「わ、私、力になれませんか?絵の知識なんて全くないけど・・・・・・来衣先輩の"目"になります」

私の足は美術室に戻ってきていた。
ダメだと分かっていても、やっぱり放っておけなかった。

「正直、助かるけど、時間は平気?」

「はい!役に立てるかわからないけど」

「未蘭は、いてるくれるだけで光になるよ」


来衣先輩の言葉はまっすぐ私の心に響く。


「えっと、まず何からはじめればいいですか?」

「俺、昼間はぼんやり見えるんだ。
見えるって言っても、ほんの少しだけど」

見えるってどの程度なんだろう。
私の姿は人には視えないのに、驚く様子はないし、人の姿形ははっきりと見えないんだろうなあ。

「未蘭には、色を作って欲しい」

「色ですね、大丈夫かな」

絵心は昔からないし、こんな本格的な絵のお手伝いなんてできるかな。
目の前のキャンバスに少したじろいでしまう。


「本当は、画面混色したいところだけど」

「が、画面混色?」

「簡単にいうと、紙の上で色を混ぜることだよ」

「へえ・・・・・・(全然わからないや)」

「くくっ、全然わかりませんって声してるな」

「なっ、わ、わかったんですか?」

「未蘭のことなら、声だけでなんでもわかるよ」

どくん、脈が速くなるのがわかった。

来衣先輩は、私のことが視えていないのに、美術室には私たちだけしかいなくて、来衣先輩の言葉は私に向けて放たれている。

彼の視線さえも私に向けられている気がして、ドキドキと高鳴る胸の鼓動を抑えることができなかった。