また始まった。いい加減にしてくれとばかりに、俺はうなだれたまま首を横に振る。
 どんなに祖父が気に入ったのだとしても、俺とその女性の間に愛が生まれなければ結婚なんて無理だ。
 だが、今回はいつも以上に祖父がたいそううれしそうな顔をしていて乗り気なのが気にかかった。

「実は囲碁仲間の倫さんの孫娘なんだ。本当にやさしい子でな、この前も俺の肩を揉んでくれて、」

「じいちゃん、頼むからそういうのは辞めてほしい」

 なんとか見合いをさせたい祖父が俺を懐柔しようとしているとわかり、会話を途中で(さえぎ)った。
 俺としてはとにかく、手当たり次第にあちこちで縁談の話をしないでもらいたい。
 今度倫治さんに会うことがあったら、恥ずかしくてどんな顔をしたらいいかわからないなと頭を抱えた。

 しかし祖父は俺がそう言ったところであきらめはしなかった。
 ある日の休日、傘を忘れたから碁会所まで迎えに来いと電話があったので赴くと、祖父と倫治さんのそばに若い女性がいた。

「ジニアールの神谷社長……ですよね?」

 俺はとまどいながらもコクリとうなずく。
 先ほど倫治さんが『これは俺の孫の冴実だ』と紹介してくれたけれど、ふたりが血縁だった事実が衝撃すぎて頭の中が一気に混乱した。
 しかし彼女がうちの社員だったことは祖父たちも気付いていなかったので、どうやらこれはまったくの偶然らしい。