ヒミツの王子様は隠れ歌姫を独り占めしたい



(キス、しちゃった……)

 午後の授業を受けながら、私はまだぼーっと夢心地でいた。

(というか、羽倉くんの笑顔、破壊力半端ないんですけど……!)

 あんな笑顔、きっとクラスの誰も知らないだろう。
 ちらりと彼の方を見る。
 すると彼はその視線に気付いてくれて、眼鏡の奥の瞳が優しく細められたのがわかった。
 胸がきゅーんとなる。

(どうしよう、幸せすぎる……!)

 彼のあんな笑顔は、もしかしたらKanataを知る人だって見たことがないかもしれない。
 でもそこで、私はハタと思い出した。

(――そ、そうだ、妹尾くんのこと忘れてた!)

 彼は本当に羽倉くんがKanataだって気付いたのだろうか。
 羽倉くんは放課後言われた通りに体育館裏に行くのだろうか。

(気になるけど、弦樹たちお迎え行かなきゃだし……どうしよう)