もやもやとしながら視線を戻すと、机のすぐ横に誰かがしゃがみ込んでいてびっくりする。
「!? ――せ、妹尾くん?」
「ねぇ、りっかちゃん」
上目遣いで彼が声をひそめ言う。
「な、なに?」
「……、……?」
彼が何か言っているのはわかるけれど、小さ過ぎて全然聞こえない。
「え? なに、よく聞こえない」
彼に耳を寄せた、そのときだった。
「ひぁ!?」
ガタンっ!
大きな音を立てて私は椅子から立ち上がった。
「――な、なっ」
だって今、耳を舐められた……!?
「ハハ、いい反応~」
なのに妹尾くんは楽しそうに笑っていて。
「な、何す……っ」
でもそのときクラスの皆の視線に気付いて私は慌てて椅子に座り直した。
小声で怒鳴る。
「やめてよ! もう、何なの!?」
「怒った顔もか~わいい~」
でもそこで妹尾くんはスっと立ち上がり、言った。
「後で話があるんだ。昼休み、ちょっと時間くれる?」
「え……」
にっこりと悪びれなく言われて、逆に困惑してしまう。
そうして彼は自分の席へと戻っていってしまった。
(ほんと、何なの……?)
――このとき私は、羽倉くんの鋭い視線に気付いていなかった。