重い足取りで教室前まで来た私は、恐る恐る教室を覗いた。
 皆、特に変わりはない様子だ。
 羽倉くんはいつものように机に突っ伏している。

(あれ……大丈夫そう? でも、妹尾くんは……)

 彼の目立つ金髪がどこにも見えない。そう思った時だ。

「りっかちゃん♪」
「ひぇっ!?」

 耳元で名を呼ばれ、思わず飛び上がってそんな変な声を上げてしまっていた。

「ハハっ、どんだけ~」
「あ、あ、」

 口をパクパクとさせていると、妹尾くんはにっこり笑った。

「や~、さっきは驚いたなぁ」
「! ――せ、妹尾くん、お願い! みんなには内緒にして!」

 パンと手を合わせて小声で精一杯お願いする。

(皆に揶揄われるのも嫌だし、一番怖いのは、羽倉くんがKanataだってバレたときだよ……!)

「え~、どうしよっかなぁ。超バズり案件だと思ったんだけどなあ~」
「や、私たち別になんでもなくて、ただ羽倉くんが寝てるだけで」

 我ながら説得力ないなぁと思いながらも嘘ではないので必死に説明する。

「へえ~? わざわざ膝枕して?」
「うっ。……で、でも本当に、付き合ってるとかじゃなくて……」
「ふぅ~ん。じゃあさ」

 ずい、と彼はこちらに顔を寄せてきた。

「俺と付き合っちゃう?」
「は?」

 妹尾くんは、にーっと笑って続けた。

「だってあいつと何でもないってことは、今フリーってことでしょ?」
「え……まぁ、そう、だけど」
「俺も今丁度フリーでさ。だからいいじゃん、付き合っちゃおう俺たち。ってことでこれからよろしくね、りっかちゃん!」

 ポンと私の肩を叩き、妹尾くんは手を振りながら教室に入って行ってしまった。

「……は、」

(ハァ~~!?)

 口をあんぐりと開けて、私は少しの間その場から動くことが出来なかった。