『……小野さん?』
「あっ、ご、ごめん! じゃあ、もう少ししたらかけ直そうか」
『いいよ。このまま、何か話して』
「え」

(何かって、何を話せば……!?)

 学校では彼はすぐ寝てしまうから、そういえばちゃんと話したことはまだない気がする。

「――あ、そ、そうだ、今日は本当にありがとう!」
『ああ。大変だったね』
「ああいうお客さん、たま~にいるんだけどね。本当、あのとき羽倉くんがいてくれて良かった」

 すると少しの沈黙があって、彼は言った。

『……バイト、なんでやってるの』
「え? あぁ、……うちの家計を少しでも助けたくて」
『そう、偉いね』

 偉いなんて言われるとちょっと照れてしまう。

「……羽倉くんは?」
『え?』
「なんでモデルやってるの?」

(とか、訊いちゃっていいのかな……?)

『あー……中3のときにスカウトされて、そのまま……』

(答えてくれた!)

 嬉しくなって続ける。

「そうなんだ。スカウトかぁ。凄いね。私には全然想像できない世界だなぁ」
『小野さん、なんで俺のこと皆にバラさないの?』
「へ?」

 唐突にそんなことを訊かれて、思わずおかしな声が出てしまった。