改札で「ここでいいから」と言ったけれど、「夜道なので、ダメです」の一点張り。 お礼に途中で夕食でもどうかと聞いてみたけれど、それも断られてしまった。


「じゃあ、俺はここで」

「うん……今日は本当にありがとう」

「いえ、なんともなかったので安心しました」

「遠山くんのおかげよ。 遠山くんが来てくれなかったら私……」


ーーどうなっていたのだろう。
あのとき遠山くんが助けに来てくれなかったら、私は今頃このアパートへ帰れなかったかもしれない。

悲しさと恐怖に怯えながら、きっとあの場所から動けなくなっていただろう。 さっきのことを思い出すだけでも、まだ身震いしてしまう程だ。


「じゃあ、また明日」


くるりと私に背を向けて、階段の方へと向かって歩き出した遠山くん。

……待って。 行かないで。
今は、1人にしないで欲しい。

ほとんど無意識だったと思う。 気が付いたときには遠山くんの服の裾を引っ張ていて、遠山くんの帰りを阻止してしまっていた。

我に返って慌てて手を放したものの、時すでに遅し。


「井筒さん?」

「やっ……あの、その……」

「んー? どうしたんですか?」


恥ずかしくて下を向いたままの私の顔を覗き込むようにして、遠山くんは意地悪っぽく言う。