その美しい瞳に涙を少し浮かべたまま、彼女はそう言った。


「……俺の家、来ますか? ここからすぐ近くなので」

「は? 冗談はやめて」


俺自身、ほぼ無意識だったと思う。

でも、こんな風になっている彼女をどうしても放っておくことができなくて、頭で考えるよりも先に言葉が出てきてしまっていた。

当然、驚いている井筒さん。 スマホで時間を確認すると0時前で、電車通勤をしている彼女に自宅まで帰る手段はない。


「でも、もう終電ないですよ?」

「タクシーで帰るから平気よ」

「明日、仕事ですよね? それに……なんかちょっと1人にするの、心配です」


自分でも不思議なくらい言葉がスラスラと出てくる。

言っておきながらなんとなく恥ずかしくなってしまって、慌てて次の言葉を探した。


「いや……だから、その。 とにかく、1人で帰るのは危ないですから」


別に、彼女に対して下心などはない。
ただただ純粋に彼女のことが心配だということを伝えたいのだけれど、なんかこう……上手くいかない。


ーーでもきっと、この時からもう俺は彼女に惹かれていたのだろうと思う。


「じゃあ……お邪魔しようかな。 せっかくだし」


弱々しく笑った井筒さん。

梅沢先生といるときのような……あの花のようなではなかったけれど、笑いながら彼女は小さくそう言ってくれた。