「……俺の家、来ますか? ここからすぐ近くなので」

「は? 冗談はやめて」


落ち着いた頃、彼に突拍子もないことを言われて驚いてしまう。

見た目は落ち着いていて恋愛の〝れ〟の字も知らないような遠山くんが、そんなことを言うなんて思ってもみなかった。
意外と大胆な部分を持っているのかもしれない。


「でも、もう終電ないですよ?」

「タクシーで帰るから平気よ」

「明日、仕事ですよね? それに……なんかちょっと1人にするの、心配です」


わずかな街灯の光の合間から見えた彼の表情は、まじめだった。 決して下心などない、本気で私のことを心配してくれているのがよくわかる。

彼の言葉に驚いて目を見開いたまま動けずにいると、「しまった……」というような感じで、恥ずかしそうに眼を反逸らす遠山くん。


「いや……だから、その。 とにかく、1人で帰るのは危ないですから」


慌てて次の言葉を探しながら頬を少し赤らめながら言っているのが、夜の暗闇の中でもはっきりとわかった。
遠山くんの気持ちが、今は素直に嬉しい。 

彼が手を出してこないことも、なんとなくわかる。


「じゃあ……お邪魔しようかな。 せっかくだし」


そう言った私のことを嬉しそうに見つめると、彼は自分のアパートに向かって歩き始めたーー。