歩きながら、涙が頬を伝っていることに気が付いた。

本当は……もっとちゃんとしたデートがしたい。
誰にもなにも言われずに、梅沢先生の彼女として、手を繋ぎながら堂々と街中を歩いてみたい。

帰り際もギリギリまで一緒にいて、「まだ離れたくないね」と言ってみたい。

梅沢先生とやりたいことはたくさん出てくるのに、叶えられていることはなに一つとしてない。 それどころかデートは基本〝現地集合現地解散〟で、帰りはいつも1人ぼっち。

すれ違うカップルはみんな幸せそうに笑っているのに、私は……。
そんなことを考えた瞬間、急激に悲しさが押し寄せ、その場にしゃがみ込んで泣き崩れてしまった。

通っていく人は見て見ぬふりをして、私の横を通って行く。




「……え? 井筒さん?」


ガヤガヤした街中で、聞き覚えのある声ーー。
顔を上げて周りを見渡してみても、視界には誰も映らない。

空耳か……と思った瞬間右腕を掴まれ、そのまま人気のないところへと引っ張られて行く。


この背中は……遠山、くん…?


まさか、そんなはずはないと思った。

こんな大勢の人の中で……しかも、しゃがみ込んで顔を隠した状態で私のことがわかるなんて、そんな都合のいいことがあるわけない。