航也と華が無事に同盟を結んだ翌日、美優は高校に復帰することができた。

マンションから高校までは、バスで15分。

自転車で十分通える距離だけど、主治医の許可が下りるわけもなく…バスを使うように航也に言われた。

「自転車の方が寄り道出来ていいんだけどな…」

鏡の前で髪をとかしながら、美優がブツブツ独り言を言っていると

「おいっ、また倒れたいのか?」

ヤバっ、航也の耳にばっちり聞こえてた(笑)

「体育は駄目だからな、薬忘れず飲めよ、何かあったら連絡しろよ」

「はいはい、わかってるよ。バス来ちゃうから私行くね!」

航也のお説教モードが入る前に何とか家を出られた(笑)

幸い、マンションと高校にはそれぞれ目の前にバス停があり、ほとんど歩かずに通学できるのはありがたい。

1ヶ月ぶりに教室に入る。

「きたきた!美優おかえり〜!」

美優を真っ先に見つけた華が、抱き付いてきた。

「ちょっ華、苦しいよ〜」

「あぁ、ごめん、ごめん」

華のオーバーリアクションのせいでクラス中の視線が集まる。

「美優ちゃん、おはよう!」
「久しぶり!大丈夫だった?」
「無理しないでね」

みんな思い思いに声を掛けてくれる。

本当にこのクラスで良かった。

クラスメイトに温かく迎えてもらって、美優はまた高校生活に戻ることができた。

もちろん、美優が主治医と付き合ってること、華と主治医が同盟を組んでいることは、美優と華だけの秘密。

思春期真っ只中のクラスメイトにバレたら、色々騒がれて、面倒なことになるのは、美優も華も避けたい(笑)


移動教室へ移動してる時
「美優、まだ病み上がりなんだから、無理しないでよ。具合が悪くなったら私にすぐ教えて?」

華が周りに聞こえないように小さめの声で言ってくれる。

「うん、ありがとうね。朝から航也にも釘さされてきた…」

「ハハハ、でもこれで私も安心したよ。だって今までの美優はさ、何もかも全部1人で背負って我慢してさ、いつか倒れちゃうんじゃないかって本当に心配だったんだよ。
だから、鳴海先生がそばにいてくれて本当に良かったよ」

「うん、華ありがとう」

華とそんな会話を交わして、華の監視付き?だけど、楽しい高校生活が再開した。


学校が終わり、携帯を見ると航也からラインが来ていた。

「学校終わったか?体調は大丈夫か?今日は予定通りの時間に帰れそう」
という内容だった。


そのままバスに乗り、真っ直ぐ航也と暮らすマンションに帰る。

久しぶりの学校は楽しかったけど、気も張って大分疲れた…

ソファに座ると美優は制服のまま眠ってしまった。

リビングの扉が開く音で目が覚めた。

「ただいま。美優どうした?ソファで寝て。疲れたか?」

「あっ、おかえりなさい。学校から真っ直ぐ帰ってきて、気付いてたら眠ってた。ごめんなさい、まだ夕飯の準備出来てなくて…」

「いやいや、そんなのは全然いいよ。美優は俺の家政婦じゃないんだから、家事なんてしなくていい。ソファでぶっ倒れてるかと思ったから焦った」

そう言いながら、いつものように一通り診察を始める。

美優は大人しく終わるのを待つ。

「ん、いいよ。大丈夫そうだな」

それから航也が作ってくれた夕飯を食べて、お風呂に入って、ソファでくつろぐ。

航也はソファの前のテーブルにパソコンを置いて、何やら仕事をしている。

美優には難し過ぎて良く分からないけど、誰かが同じ空間にいるだけで、美優はホッとできた。

「ねぇ、航也?お仕事中ごめんね」

「ん、なに?学会の資料まとめてるだけだから大丈夫だよ、どした?」

「あのさ、バイトのことなんだけど…ずっとお休みさせてもらっちゃってるから、そろそろ行っても大丈夫かな〜って」

「あぁ、そうだな。ん〜、俺としては、バイトの掛け持ちは美優の体調を考えるとあまり許可できないな…」

「うん…でも、私…これから入院費とか治療費とか、それに生活費とか進学費用とか、色々考えるとバイトしないとだから…」

お金が美優の一番の心配事だった。

「あぁ、そのことだけど、入院費も治療費も俺が支払い済ませてあるから大丈夫。
俺が働いてる病院に入院してたわけだし、美優の費用払うくらい、どうってことないよ。
生活費だって、俺と一緒に住んでるんだから要らないし、進学資金も俺が出すつもりでいるから、心配すんな」

「え?でも悪いよ…私の親でもないのに…そんな負担かけられないよ…」

「俺はさ、美優の彼氏であって、主治医であって、親代わりだとも思ってる。美優は、今まで辛い思いして、1人でよく頑張ってたと思うよ。
でもさ、まだ美優は高校生なんだ。普通はお金の心配せずに、勉強に集中したり、友達と買い物行ったり、食事したりさ。
これからは高校生らしく、毎日を楽しく過ごしてほしいと思ってる。
美優はこれから、喘息と上手く付き合いながら過ごしていかないとだから、主治医としても無理はさせられないな。
美優がどうしてもって言うなら、あまり体の負担のかからないバイトを週1日くらいなら、許可してもいいけど…」

「ほんとに…何から何まで…ありがとう…グスン」

美優の目からは、嬉し涙が溢れる…

「いいの、俺が勝手にやりたいだけだから。それに来年は高校3年だから、受験勉強が本格的に始まるだろ?
美優は将来、何がしたいの?」

「私ね、子供が好きだから、保育園の先生がいいかな〜って。華はたしか…学校の先生とか言ってたかな?」

「そっか。2人とも合ってると思うよ、頑張れよ!」

航也とこんな会話をしてから、美優は色々と考えて、週1日だけカフェのバイトをすることにした。

(自分のお小遣い分くらいは自分で稼ぎたいし、もうすぐやってくるクリスマスくらいは、何か航也にプレゼントを買って喜ばせたい)

彼氏彼女には欠かせない大事なイベントに胸を踊らせながら、美優は航也との幸せな日々を噛み締めていた。