「美優ちゃん?美優ちゃん?」

看護師さんの呼ぶ声で目覚める。

「美優ちゃんよく寝てたね。夜中眠れなかったみたいだから、眠れて良かったね。お腹はどう?」

「うん、お腹良くなったみたい」

起きるとお腹の違和感はすっかり良くなっていた。

「もうすぐ集合時間になるから、用意して一緒に行こうね」

そう言われ、美優は身支度を整え、看護師さんが荷物を持ってくれて、集合場所の病院のロータリーに向かった。

集合場所に着くと、大型バスが1台止まっている。

美優の姿を見つけた華が駆け寄る。

「美優!おはよう」

「あっ、華おはよう!」

「体調大丈夫?夜中大変だったみたいだね」

「うん、心配かけてごめんね」

夜中のことは、航也から翔太へ、翔太から華へと伝わり、すでに情報共有がされている(笑)

そこへ翔太がやってきた。

「美優おはよう。大丈夫か?
何かあれば、華でも俺でも良いからすぐに言うんだぞ。華と美優は隣同士で座ってね」

「うん、ありがとう」

翔太は華と美優の2人の頭にポンと手を置いて、他の子供達の方へ去っていく。

翔太は子供達に声を掛けたり、点呼を取ったり、バスの座る位置を再確認したりと忙しそう。

「翔太忙しそうだね」

「うん、翔太ともう1人の先生が中心になって進行しなきゃだから、色々大変みたい」

「バス一緒の席にしてくれたんだ」

「翔太が美優に何かあった時に異変に気付けるようにって、私と一緒の方が良いって。夜泊まる部屋も私と一緒だよ!」

「え、本当?うれしい!」

美優のテンションが上がる。

華とそんな会話をしていると、航也ともう1人のお医者さんが集合場所に来た。

航也は私達を見つけて近付いてくる。

「華おはよう。今日はよろしくね」

「おはよう。うん、美優のことなら私に任せて!」

「おう。俺も近くに座ってるけど、他の子供達も見なくちゃだからさ」

「美優はちょっとでもおかしいと思ったら、華にちゃんと言うんだぞ」

「もうわかったから」

周りの目もあるし、はいはいと言わんばかりに返事をする。

そして、航也はスタッフが集まる場所に行ってしまった。

離れた所にいる奈々ちゃんに手を振る。小学生3人も無事に参加できたようで安心する。

翔太の合図で、バスの添乗員さんに荷物を預けて、バスに乗り込む。

その時、航也が華に声を掛ける。

「華。美優夜中に発作起こしてあまり眠れてなかったみたいだから、窓際に座らせてくれる?たぶん寝ると思うから」

「うん、わかった。そうするね」

華は航也に言われた通り、美優を窓際に座らせる。

「華、なんか修学旅行みたいで楽しみだね!」

「そうだね、泊まりなんてワクワクするね!」

出発してバスガイドさんの話を聞いたり、華が飴やお菓子をくれて、食べながらしばらく華と話していた。

30分程して美優は眠くなってきたが、寝たらもったいない気がして、目を擦りながら何とか起きていようとする。

「美優?寝てていいよ!着くまでに休んどきな」

華の言葉を聞いて窓に寄りかかり目を閉じる。

しばらくして、華に揺さぶられて起きる。

「美優?サービスエリア着いたよ。大丈夫?起きれる?」

目を開けるとサービスエリアの駐車場にバスが停車する所だった。

「ありがとう。大丈夫」

「ちょっと時間あるから、トイレ行って、お土産とか少し見よう」

「うん!」

トイレを済まし、お土産を少し見ていると航也が声を掛ける。

「美優変わりないか?ちょっとごめんな」

そう言うと、美優の手首を取り脈を測る。

「ちょっと早いな。苦しくない?」

「うん、大丈夫」

「わかった。華?これから山道入って行くから、ちょっと注意して見ててくれる?」

「うん、わかった」

航也はそう言うと、他の子供達の所に歩いて行く。

「美優そろそろバスに戻ろうか」

「そうだね」

バスに戻ると翔太とバスガイドがバスの扉の所で待っている。

「お前ら、のんびりだな(笑)」

「ごめん、ごめん。お土産ぶらぶら見てた(笑)」

華が答える。

それから翔太が人数を確認し、バスは再び出発する。

バスの中では、子供達が退屈しないようにアニメが流れている。

バスはだんだんと山道に入って行く。

気圧で耳がおかしくなり、あくびをしたり、つばを飲んだりして耳抜きをする。

あと30分くらいで目的地に着こうという時だった。

「…コホッ、コホッ」
周りに聞こえないように小さく咳払いをする。

また始まった…
私の体ってどうしてこうも正直なんだろう…

咳払いをしても気管支が圧迫されるような違和感は治らない。

「美優?大丈夫?」

「うん、大丈夫…コホッ、ハァ」

美優は自分を落ち着かせようと必死に深呼吸を繰り返すが、発作が起きそうな感覚…

思わず胸を抑えて前のめりになる。

「美優?」

「みんなに言わないで。吸入器してみる」

華は美優のカバンから吸入器を出して美優に渡す。

美優はシュッと1回プッシュして吸入する。

「どう?落ち着きそう?」

願いに反して吸入器を吸っても良くならない…

「ゴホッ、ゴホッ」

本格的な咳が出始めた。

通路を挟んで反対側に座ってた看護師が異変に気付く。

「美優ちゃん?大丈夫?」

「さっき1回吸入したんですけど良くならないみたいで…」

華が伝えてくれる。

「華ちゃん、ちょっと私と席変わってくれる?」

看護師さんが医療用バックから聴診器を取り出し、美優の隣に座って脈を見たり、胸の音を聞いてくれる。

「ゴホッ、ゴホッ、ハァ、ハァ」

「美優ちゃん、ちょっと待っててね」

看護師さんが、前の方に座ってる航也に報告し、航也が来てくれた。

「美優?やっぱり発作出ちゃったな。気圧が変わったからどうしてもな。看護師さん、SpO2モニターもらえる?」

「美優、ちょっと指に挟むよ。95%か…美優苦しいな、ゆっくり深呼吸するよ?」

航也は周りに聞こえないように小さめの声で話し掛けてくれる。

「とりあえず、もう1回吸入して様子みよ。いい?思いっきり吸って」

航也は吸入器を吸わせてくれるが、なかなか改善しない。

「ゴホッ、ゴホッ、くるし…」

しばらく様子を見るが、SpO2はさらに低下する。

「ごめん、美優。ちょっと発作止めの注射させて?」

美優が頷くのを確認して、看護師に静脈注射の準備をお願いする。慌ただしくなるバス内。

翔太が航也の元に来る。

「美優、大丈夫か?」

「あぁ、本格的な発作になってきたから、静注するわ」

「バス止めるか?」

「いや、このままやるからいいよ」

「美優、ちょっとチクッとするよ」

注射器を受け取った航也は、揺れる車内にも関わらず、素早く美優の腕に刺す。

処置が終わり、華と席を変わってもらい、航也が付き添って様子を見る。

「美優、楽にしてて。胸の音聞くよ」

美優はグッタリしている。

「鳴海先生、あと15分くらいで到着しますが、着いたらホテルの処置室に運びます?」

看護師が尋ねる。

「そうだね、そこでちょっと様子見るわ。まだ喘鳴かなりあるし、SpO2の上がりが悪いから、酸素投与した方がいいな」

「わかりました、先に降りてベッド用意します」

「よろしく」

「ハァ、ハァ…頭いたい…」

「酸欠気味だから頭痛くなっちゃったな。ゆっくり深呼吸だよ。大丈夫俺が側にいるから」

美優は不安でずっと航也の手を握り締めていた。