〜課外授業前日〜
美優は、微熱から上がることはなく平熱に戻ったが、依然としてピークフロー値は低いままの状態が続いている。

今日は大事を取って病室で過ごす。

そこに看護師が入ってきた。

「美優ちゃん、課外授業いよいよ明日ね。鳴海先生も華ちゃんも行けるみたいで良かったわね。私も病棟の看護師として同行するから、何かあれば遠慮なく言ってね。これから一緒に明日の準備しようか」

そして、看護師さんと一緒に荷物の準備をする。

「吸入器も薬もしっかり持ったね。着替えも上着も入れたし、準備万端ね」

そして夜。

夕飯を食べ終わり、もう1度荷物の最終確認をして、洗面台で歯磨きをしていた時、美優は少しの息苦しさを感じる…

急いでうがいをし、ベッドに座り呼吸を整えるが、なかなか苦しさは引いてくれない。

「ハァ、ハァ、ハァ」
(明日は楽しみにしていた泊まりなのに、嫌だな…)

ナースコールを押そうかと思ったけど、今発作が起こったことが分かれば、明日行けなくなるかもしれない…

そんな不安が先に立ってしまい、ナースコールを押さずに吸入器を吸って、そのままベッドに入って眠ることにした。

目を閉じて少しすると息苦しさがだんだんと和らいでいった。

そのままウトウトし眠りに落ちそうになっていた時、静かに扉が開く音がした。

美優は目を閉じたまま、とっさに寝たふりをする。

そっとおでこに手が乗り、すっと聴診器が滑り込んでくる。

すぐに航也だとわかった。

このままバレませんように…
美優は心の中で必死に祈る。

祈りが通じたのか、そのまま航也は部屋から出て行った。

バレずに済んだ?…よかった…


〜ナースステーションにて〜
航也が夜勤看護師に声を掛ける。

「美優なんだけどさ、たぶん発作が起きたと思うんだけど、本人から何か聞いてる?」

「いえ、本人からは何も…」

「そう。吸入器の残量が減ってたから自分で使って寝たんだと思うんだけど、発作後の肺雑がしっかり聞こえてたからさ。
また夜中に何かあったら、当直の先生に連絡よろしく。
俺明日の課外授業の同行あるし、今日は帰るから」

「はい。美優ちゃんいつもはちゃんとナースコールで教えてくれるんですけどね。明日行けなくなると思って言わなかったんですかね…」

「だと思う(笑)」

「でも美優ちゃんの気持ちも分かりますよね。自分でちゃんと吸入できて、えらかったですね」

「うん、だからあえて何も言わないでおいた。ちょっとずつあいつなりに成長してるんだなって思って。まぁ、明日の朝になったらしっかり伝えるけど」

「わかりました。注意して見るようにしますね」

「うん、よろしく」


〜夜中1時過ぎ〜
「コホッ、コホッ、コホッ」

美優の部屋から咳き込む声が聞こえる。

看護師が部屋に入ると、美優は寝苦しいのか何度も寝返りを打っている。

sPO2を測定すると95〜97%を行ったり来たりしている。

値としては低い。

「美優ちゃん、美優ちゃん?
ちょっと苦しいかな?ベッド少し上げるね」

「うん?…だいじょうぶ…コホッ」

「美優ちゃん?今我慢すると後でしんどくなっちゃうから、苦しかったら正直に教えて欲しいな」

「うん…少し…息が吸いづらい…ゴホッ」

「うん、教えてくれてありがと。当直の先生に診てもらおうね」

しばらくすると、美優の知らない先生が入ってきた。

「鈴風さん、ちょっと胸の音聞きますね」

知らない先生に緊張するけど…終わるまでじっとする…

「喘息の発作ですね、ネブライザーと点滴しましょう」

そう言い、看護師に指示を出す。

夜中にネブライザー…
きっと航也だったら寝不足や体力消耗を考えて、夜中にネブライザーをすることはないだろうけど、今はこの先生に従うしかない。

「美優ちゃんちょっとチクッとするよ、ごめんね。次はマスクしてね、煙出てくるよ」

看護師さんがテキパキと準備をしてくれる。

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、ハァ、ハァ」

「美優ちゃん苦しいね、ゆっくり深呼吸よ」

看護師が背中をさすり、ネブライザーが終わるまで付き添ってくれる。

しばらくすると苦しさは遠のいていったが、何だかさっきからお腹が痛いような〜、違和感があるような…

でも発作の次に腹痛があるなんて知られたら、今度こそ泊まりに行けなくなってしまう…

そう思うとまたナースコールを押すことができず、ただお腹の違和感が過ぎ去るのを待つ。

時計を見ると3時。

発作後のダルさとお腹の違和感とが相まって、眠たいのに眠れない…

1時間後、看護師がラウンドに来た音がして美優はうっすら目を開ける。

「美優ちゃん、眠れない?呼吸は落ち着いてるから大丈夫よ」

そう声を掛けてくれるが、美優はウトウトするものの、ぐっすり眠ることができずに朝を迎えた。