〜出発の2日前の朝〜
航也がナースステーションに顔を出すと、朝の検温を終えた看護師が声を掛ける。

「鳴海先生、おはようございます。美優ちゃんなんですが、朝の検温で37.1でした。体のダルさや息苦しさはないようですが、ピークフロー値もいつもより低めでした」

「ありがとう。夜は良く眠れてた?」

「はい。2時間毎のラウンドに行った時は、スヤスヤ眠っていました」

「わかった。ちょっと本人の様子見てくる」

「はい、お願いします」

看護師と会話を交わし、航也は美優の病室に向かう。


「美優、おはよう。微熱あるんだって?どれどれ」

美優のおでこに手をやる。

「うん、いつもよりあったかいな。診察させて」

「うん」

いつものように一通り診察をする。

「いいよ。ピークフロー値の表も見せて」

美優は航也に言われた通り、毎朝ピークフロー値を測定し、自分で記録に付けている。

(やっぱりいつもより値低いな…)

「今日はちょっといつもより数値が低いね。俺に合わせてもう1回測ってみよう。思いっきり息を吸って一気に吐くよ。いい?はい、じゃあゆっくり吸って〜吐いて!」

「フゥーーッ!…コホッ」

美優は航也に合わせて思いっきり息を吐くが、思わず咳き込んでしまう。

「大丈夫か?うん…やっぱり数値低いな。今、息苦しい?」

「う〜ん…苦しくはないけど、喉の奥に違和感がある感じ。
なんていうか…詰まってるみたいな」

「そっか。じゃあ、ここで1回吸入しとこ。看護師さんにネブライザー用意してもらうから」

ネブライザーとは、いつもの吸入器とは違い、酸素マスクをして薬剤の煙を吸うやつで、苦しくなるから美優は苦手…
発作傾向だと咳込みも多くなる。

「え…いつもの吸入器じゃだめ?」

「明後日の泊まりに行けなくなったら嫌だろ?念の為、ネブライザーやっとこ」

「うん…」

看護師がネブライザーを用意してくれ、美優はマスクをして出てきた煙を吸う。

「ゴホッ、ゴホッ…」

(やっぱり咳が出るな…発作出やすくなってんな…)

航也はそう思いながら、美優に声を掛ける。

「美優苦しいね。慌てなくていいから、ゆっくり煙吸うぞ。ゆっくり息吸って〜吐いて〜…そうそう、上手だよ」

10分後、ピーとネブライザーの終了音が聞こえる。

美優はグッタリ…

「よく頑張ったな。今日は院内学級行かずに休んでるか?」

「うん…そうする…」

「わかった、翔太に伝えるわ」

航也はその場で翔太にピッチで連絡する。

「あ、翔太?今日なんだけどさ、美優大事とって休ませるわ。うん、わかった、伝えとく」

翔太が夕方、ベッドサイド授業に来てくれるらしい。