〜翌朝〜
カーテンから差し込む光で航也は目覚める。

時計は7時を指している。

隣に寝ている美優を見ると、汗をかいて、やや息が上がってる。

航也は、そっと体温計を入れる。

ピピピッ

38.6…熱がさらに上がった。

胸の音も喘鳴がはっきりと聞こえる。

(やっぱりまだ外泊は早かったか…)


「美優、美優?」

呼び掛けにうっすら目を開けるが、またすぐに閉じてしまう。

(ん?意識がおかしい?)

「美優!おい!」

航也は美優の体を揺すり起こす。

「ん…こうや?」

「よかった。意識がおかしいかと思って焦った。美優、起きれる?ソファに一旦行こう」

美優を抱き上げ、リビングのソファに寝かせる。

「美優?今苦しい?どっか痛い?」

「うぅん、大丈夫」

起きてすぐはボーッとしていた美優だったが、段々と目が覚めてきたようだ。

まだまだ油断は出来ないが、家にいる時くらいは、病気や治療を少しでも忘れて過ごさせてやりたい。

「美優?まだ熱があるし、喘鳴もまだあるから無理は出来ないけど、夕方病院に戻るまで、何しようか?」

「う〜ん、美優…また海に行きたい。でも今日は無理だよね…」

今日病院に戻れば、またしばらく外出が出来ないとわかっている美優は、少しわがままを言ってみる。

「いいよ。夕方の4時までに出勤すればいいから、2時過ぎに出発して、海にドライブに行ってから病院に向おうか?」

「いいの?ありがとう」

「フフッ美優、海好きになったの?」

「うん、前に航也が海に連れて行ってくれたでしょ?すごく綺麗だったから、また行きたいの。前とまた同じ場所がいい」

「そっか、わかったよ。でもそのかわり、時間になるまで少しでも睡眠取っておこう。俺も一緒に寝るからさ」

「うん」

「これから、さっと朝ご飯作るから待ってて」

航也は美優の体調を考えて、卵雑炊を作る。

美優はお茶碗の半分くらい食べた所でごちそうさまを言う。

「美優もう無理?もうちょっと食べてほしいな。ゆっくりでいいよ」

美優の体重が減っているから、少しでも食べさせないと…

そう言うと、頑張って全部食べることができ、航也はホッとする。

少しして美優をベッドに寝かせる。

さすがにもう寝ないかと思ったが、美優の髪をなでていると、すぐにスースーと寝息を立てて寝始める。

やっぱりまだ体力がないな…


〜数時間後〜
航也は美優の咳き込む声で目が覚める。

「ゴホッ、ゴホッ」

「…美優?」

「こうや…ゴホッ、ハァ、ハァ
、くるし…」

「苦しいな、ちょっと起きて吸入吸おう」

「スー、ハー、ハァ、ハァ、ハァ」

「美優、ゆっくりだよ」

玉のような汗をかき必死に肩で呼吸している。

ちょっとまずいな…

時刻は13時を回った所。

吸入を吸っても落ち着かない美優を見て頭を悩ませる。

点滴しないとだめだな…

「美優?苦しいね、ちょっと早いけど病院戻ろう。いいね?」

嫌がると思ったけど、相当苦しいのか、頷く美優。

その様子にさすがの航也も焦る。

「美優、すぐ準備するからちょっと待ってて」

あらかじめ準備していた美優の荷物と自分のカバンを車に積み、それから美優を抱いて車に乗せる。

「美優!もうすぐだからな!」

美優の苦しそうな息づかいだけが車内に響く。

病院までの10分がこれ程長く感じたことはなかった…

処置室に運ばれた美優の状態は
、重責発作を起こしていて危険な状態だったが、何とか点滴で落ち着いた。

挿管の一歩手前だった…

一足早く病室に戻ってきた。

美優が寝たのを確認し、航也も当直の時間まで仮眠を取ることにする。


〜美優〜
目を開けると…病室に戻ってきてしまったことがわかった。

(海…見れなかったな…)

何だか悔しくて涙があふれる…

その時、看護師さんが入ってくるのが見えた。

「あっ、美優ちゃん、起きたのね。どうしたの?苦しい?」

泣いている美優を心配してくれてる。

「大丈夫。だけど…すぐに体調崩しちゃうから…悲しい…」

「そっか。やっぱりお家がいいもんね。でも大丈夫よ。また元気になれば、外泊も出来るから。鳴海先生もそう言ってたでしょ?ゆっくり今は体休めようね」

美優は看護師の言葉に頷く。

体は疲れていて熱もあるのに、なぜか寝れなくて、ポタポタ落ちる点滴をボーッと見つめていた。

〜翔太〜
美優ちゃんが体調を崩して、予定時刻より早く帰って来たと聞いて、ナースステーションに向かう。

航也を見つけて声を掛ける。

「航也お疲れ。美優ちゃんどうした?」

「あぁ、お疲れ。いやさ、美優が海見たいって言うから、早めに出発して海見せてから病院に戻ってこようとしたんだけど、昼過ぎに重責発作起こしてさ、そのまま運んだ。
昨夜から発熱もあってさ、やっぱりまだまだ体力がないんだな…」

「そっか、大変だったな。少しずつだな。俺ちょっと顔出してくるわ」

「あぁ、サンキュ。俺もすぐ向かうわ」

翔太は美優の病室に入ると、美優はボーッと点滴を見つめている。

「美優ちゃん、おかえり。具合はどう?」

翔太先生が美優のおでこを触る。

「まだ熱高いね。外泊どうだった?」

「うん、楽しかった。でも具合悪くなっちゃって…海見に行けなかった…」

「そっか。また元気になったら行けるようになるよ!
そうそう、奈々ちゃんの抗がん剤の副作用が落ち着いて、今日から院内学級に来れるようになったよ。美優ちゃんに会えるの楽しみにしてたから、元気になったらまたおいでね」

「本当に?よかった」

奈々ちゃんに会えることが嬉しくて少し元気が出た。

そこに航也も合流する。

「美優、大丈夫か?ちょっと胸の音聞くよ」

「うん」

「いいよ。やっぱり大きな発作だったから、まだ喘鳴が強いな。苦しかったらすぐナースコールするんだよ」

「はーい」

こうして美優の初めての外泊リハビリは幕を閉じた。