〜クリスマス会当日〜
美優との車デートの翌日、航也はいつもの出勤時間より、早めに病院に向かう。

短時間だったとは言え、昨夜、寒空の下に美優を出してしまったことで、体調を崩さないか心配だった。

航也に気付いた看護師が声を掛ける。

「鳴海先生、おはようございます。お早いですね。
美優ちゃん、朝までぐっすり眠っていましたよ。夜中に咳き込む声が1、2回聞こえましたけど、バイタルも落ち着いていましたし、他の患者さんも皆、お変わりありませんでした」

看護師が、航也の聞きたかったことを察して、報告をあげてくれる。

「うん、わかった、ありがとう」

航也と美優が付き合っていることは、大々的に公表しているわけではないが、ここの病棟スタッフは長年勤めている人も多く、30歳〜50歳代のベテラン看護師が多い。

呼吸器内科病棟にいる入院患者の中で1番若い美優は、スタッフからも可愛がられ、家族のように良くしてもらっている。

航也と美優の関係も当然のように扱ってくれている。

娘の恋愛を温かく見守ってくれていると言ったところだろうか…(笑)

美優が辛い治療を耐えられるのも、入院を嫌がらないのも、病棟スタッフのおかげで感謝しかない。

そんなことを思いながら、航也は今日も仕事に取りかかる。


今日は、院内のクリスマス会が午後から行われる。

看護師が美優をクリスマス会に連れて行ってくれるらしい。

航也は、医局に向かう前に美優の病室に顔を出す。

「美優おはよう。まだ眠そうだね。久しぶりに出掛けたからな、疲れたか?」

「航也?今日、早いね。うん、大丈夫」

「美優の大丈夫は信用できないからな。どれどれ、胸の音聞かせて」

「…ん?ちょっとだけゼイゼイしてるけど、今苦しい?熱は触った感じ無さそうだな」

「うぅん、全然分からなかった。今?苦しくないよ」

「ならよかった。でも何かあったらすぐナースコールして。念のため、1回だけ吸入器吸っておこう」

頷く美優。
だいぶ慣れてきた。

「上手に吸えたな。今日の病院のクリスマス会だけどさ、時間になったら看護師さんと一緒に行ってきな?連れて行ってくれるみたいだよ。ピアノとか聞いておいで」

「うん!楽しみ!」


午後になり、クリスマス会が始まった。

ほんの1時間程度だが、ピアノ演奏や大学病院付属の看護学校の学生が合唱を披露したり、なかなかの人が集まっている。

航也も仕事を切り上げ、少し遅れたが会場に顔を出すことができた。

小児科の子や、院内学級の子供達も参加し、院長扮したサンタクロースが子供達にプレゼントを配っている。

航也は、院内学級の子供達と一緒にいる翔太を見つけて声を掛ける。

「翔太、お疲れ」

「おっ航也。仕事終わったの?」

「奇跡的に(笑)今年も盛り上がってるな」

「そうだな。あっ、美優ちゃんは来てないの?」

「いや、看護師さんが連れて来てくれてるはずなんだけど…あ、いたいた、あそこの椅子に座ってる子」

クリスマス会も終盤になった頃、航也は翔太を連れて、美優の所へ行く。

「美優!」

美優は、航也に気付くとニコッと微笑む。
手にはプレゼントの箱を持っている。

「クリスマスプレゼントもらったの?良かったな。
そうそう、前に言ってた院内学級の先生連れて来たよ」

「美優ちゃんはじめまして。高松翔太です、よろしくね。俺、航也とは幼馴染なんだ。美優ちゃんの事は、いつも航也から聞いてるよ。コイツ…いつも美優ちゃん、美優ちゃんって、美優ちゃんにゾッコンなんだよ。
美優ちゃんのことになると、心配性になって、あれやこれやうるさいでしょ?
それも、コイツなりの愛情表現だから、許してやってね(笑)」

「うるせぇよ」

2人のやり取りが面白くて、美優は声を出して笑う。

「2人とも面白い!こちらこそ、よろしくお願いします」

「こちらこそ。美優ちゃんさ、体調が良い時にでも院内学級に遊びに来ない?
体調が優れなくても、航也の許可が下りれば、来てもらっても大丈夫だからね。
小さい子もいて賑やかだけど、中学生と高校生は別室で授業してるし、高校の勉強もそこで出来るから、もし良かったら来てみて。待ってるから」

そう言って、翔太先生は院内学級の子供達と一緒に院内学級に戻っていった。

航也は美優と病棟に向かって歩き出す。

「優しそうな先生で良かった」

「ハハ、まぁいいヤツだよ。まだ退院は先になるし、院内学級で授業受けてみるか?」

「うん、せっかくだし行ってみようかな。授業にも遅れたくないし、ずっと病室にいるのも退屈だしさ」

「わかった。明日から行けるように翔太や病棟の看護師さんに伝えておくな」

そうして、翔太のいる院内学級に通うことになった。