華と買い物中に体調を崩した美優は、そのまま入院生活を送っている。

外はもうクリスマス一色。

病院も例外ではなく、大学病院のエントランスホールには、見上げる程の高さの大きいクリスマスツリーが飾られている。

クリスマス当日には、このエントランスホールでクリスマス会が開かれ、ピアノ演奏や催し物があり、その時ばかりは手の空いた職員も集まり、会に参加する。

しかし季節は冬。

呼吸器内科の医師にとっては、一番忙しい時期となり、航也はあまり参加したことがない。

毎年、小児科病棟の子供達を中心に、院長扮したサンタクロースがプレゼントを配りに回る。

確か小児〜18才までの子が対象だったはず、高校生の美優の所にも届くかな。

美優には当日のお楽しみで内緒にしておこう。


そんな美優は、相変わらず熱が上がったり、下がったり、発作が出たり、体調が不安定な状態が続いている。

2人で過ごす初めてのクリスマスは、どうやら病院で過ごすことになりそうだ。

航也は、入院中の美優ができる限りクリスマスを楽しめるように、あれこれ考えていた。


〜ある日のお昼時〜
美優が、運ばれてきた昼食とにらめっこををしていた時

ガラッと病室の扉が開いて、航也が入ってきた。

手には何やら袋を持っている。

「航也!」

美優の顔が一瞬で明るくなる。

「ちゃんと昼飯食ってるか?
なにニコニコして、そんなに俺に会いたかった?」

いたずらに航也が聞いてくる。

「うん」

「やけに素直だな。どれどれ、まずは診察させて」

手に持っていた袋を無造作にテーブルに置き、美優の診察を始める。

胸の音を聞き、耳下のリンパを触り、下瞼を下げ、一通り観察していく。

「よし、いいね。苦しくはない?顔色もいいしね。たまにはさ、美優の部屋で昼飯食べようと思ってさ」

そう言うと、袋からおにぎり2個とお茶のペットボトル、プリン2個を取り出す。

「はい、これ美優の分ね」

プリンを1つ美優のお盆の上に置く。

「わぁ!いいの?うれしい!」

目をキラキラさせて喜ぶ美優が可愛くて、航也も自然と笑みがこぼれる。

「昼飯食ったらな!」

すかさず航也が言う。

一瞬しゅんとなった美優だが、仕方ないと言わんばかりに、箸を持ってノロノロ食べ始める。

実は美優の食欲がなかなか戻らない。喘息の薬の副作用で食欲が低下しているため、仕方ないことだが、美優の体力を考えると、少しでも食べてもらいたい。

食事制限はないため、なるべく美優が食べたい物を買っていく。

おにぎりを食べながら、しばらく美優の様子を見ていたが、やはり箸がなかなか進まない様子。

「美優、大丈夫?今はさ、強めの薬使ってる影響でちょっと食欲落ちてるだけだから、心配しなくて良いぞ。もう少し食べられそう?あと2口食べたら、プリン食べていいよ」

「本当に?がんばる…」

そう言うと、美優はゆっくり2口食べ、プリンも完食することができた。

「気持ち悪くない?よし、食べられたな」

美優も安心したのか笑顔がこぼれる。

航也は美優の頭をポンポンし、話を続ける。

「美優さ、もうすぐクリスマスじゃん?今はまだ退院は難しいから、今年のクリスマスは病院で過ごすことになると思うんだ。
でね、毎日検査とか治療とか頑張ってるご褒美に、半日だけ外出許可出そうと思うんだ。
ただ、外の冷気で喘息の発作が出たら大変だから、車の中からになるけど、海見に行ったり、イルミネーション見に行ったりしない?車デートになるけど、それでも良いなら、どうかな?」

「えっ!!いいの??行く!行きたい!!」

「ハハハ、急に元気が出たな。じゃあ、24日の日、俺、午前の外来だけだから、午後になったら出掛けるか?」

「うん!嬉しい!!」

子供のようにはしゃぐ美優が、たまらなく愛おしい。

「じゃあ、約束な!俺もう行かなきゃ。また来るから、大人しくしてろよ」

そう言って休憩時間を美優の病室で過ごした航也は、仕事に戻っていった。

ご褒美の日を心待ちにしながら、美優は毎日を過ごした。