〜美優〜
どのくらい眠っていたんだろう…

航也に呼ばれた気がするけど…

なんだかよく思い出せない…

ふと、右手に違和感を感じ、ゆっくりと視線を落とす。

そこには、ベッド脇の椅子に座り、美優の手を握りながら眠っている航也の姿が目に入った…

「こうや…」

航也の名前を呼びながら、右手を動かす。

「…ん?…あっ、美優!!」

寝起きの顔をしていた航也だったが、美優の目が開いているのを確認すると、一瞬で医者の顔に戻った。

「目が覚めたんだな、良かった。ちょっと胸の音聞かせて。ん、いいよ。今、鼻の酸素付けてるけど、まだ外すと苦しくなっちゃうから、しばらくしててね。マスクより楽だろ?」

美優は頷く。

「…ごめんなさい…」

美優が小さく呟く。

「うぅん、大丈夫だよ。美優が病院から居なくなったって聞いて、心臓が止まるかと思ったけど…俺こそ、忙しさにかまけて美優のこと良く見てやれてなかったな…ごめんな…」

そう言い、美優の髪を優しくなでる。

「…こうやは…悪くない…」

「ん?」

「……」

「美優?ゆっくりでいい。美優の思ってること、ここに溜まってるもの、全部吐き出して欲しいな。美優の気持ち教えて?俺には話したくないか?」

美優はぶんぶんと首を振り、少しずつ話し始める。

「私…なんだかよくわからないけど…急に航也と住むお家に帰りたくなっちゃって…気付いたら…外にいたの。
寒くて、寒くて…そしたらだんだんと息が苦しくなっちゃって…でも遠くで航也に呼ばれた気がして…来てくれたんだって嬉しかった…」

「うん」

「でも、前に病院来た時、華と買い物してたら具合悪くなっちゃって…華にも迷惑かけたし…航也にも…
航也もお仕事で忙しいのに…美優の心配ばかりさせちゃって…なんか…自分がだんだん惨めに思えてきて…
私がいるとみんなに迷惑かけてる気がしたの…
病気もこの先どうなるのか不安だし…来年は受験だけど、私はみんなと同じように受験生になれるのかな…夢叶えられるのかなって…
色々考えてたら…なんかよくわからなくなっちゃって…」

「うん、うん」

「航也にも…たくさん迷惑かけて…グスン
彼女なのに…航也のために…何もしてあげれてない…
彼女に相応しくないんじゃないかって…考えちゃったの…グスン。それで…気が付いたら刺さってた点滴抜いちゃってた…ごめんなさい…グスン…」

「そっか、そっか。美優は1人で背負い過ぎ。でも素直に気持ち話してくれてありがとうな。1人で悩ませて…辛かったな」

航也は涙を流す美優を優しく抱き締め、話を続ける。

「俺はさ、美優に何かしてほしいなんて、全く思ってないよ。俺のそばで美優が居てくれるだけで、笑ってくれるだけでいい。
美優が辛い時、悲しい時、苦しい時は全力で守りたい。
そして、これから美優には楽しい思い出をたくさん作ってやりたいと思ってる。
美優が壁にぶち当たった時は、一緒に悩んで、一緒に考えていきたい。
前にも言ったろ?美優はもう1人じゃないって。忘れちゃった?
今回の入院はさ、ちょっと大きい発作だったから、長引くかもしれないけど、病気は俺が責任持って診ていくから安心してほしい。不安にさせてばかりで、説得力ないけどな…」

美優は航也の胸に顔をうずめながら、首を左右に振っている。

「俺もなかなか忙しくて、病室に来れない時も多いけど、仕事してる時も、家にいる時も、いつも美優を思ってるよ。
華ちゃんだって同じ。あんなに美優を思ってくれてる友達なんていないよ。
美優が1人で背負い込んで、苦しんでる姿を見るのは…俺としても、きっと華ちゃんも、辛いし、寂しいと思うから…
美優には、もっと甘えて欲しいし、頼って欲しい。俺じゃだめ?」

さらに強く首を左右に振る美優。

美優の鼻をすする音だけが病室に響く。

「美優?我慢しなくていいんだよ?泣きたい時は、泣いていいんだよ?」

その言葉を聞いた途端、美優は声を上げて泣き始めた。

子供みたいに大泣きする美優を見るのは初めてだったが、それくらい1人で溜め込んでいたのかもしれない…

「よし、よし、辛かったな。美優が頑張ってること、俺が1番良くわかってるよ。俺をもっと頼って?できそう?」

「うん…できる。ありがとう…だい…すき…」

「フフ、俺もだよ」

こうして、ようやく美優の気持ちを聞くことができ、航也の思いも伝えることができた。

この出来事を境に、少しずつ美優の笑顔が増え、明るさを取り戻していった。