〜3時間後〜
救命センターでは次々に患者が運び込まれ、処置、検査、入院指示、家族への説明…
等々をこなし時計を見ると、ヘルプに来てから3時間が経とうとしていた。

救命センターも落ち着きを取り戻し、救命センターの医局でコーヒーをご馳走になっていた時だった。

突然、航也のピッチが鳴った。

“呼吸器内科病棟”の文字…

「はい、鳴海です」

「あっ鳴海先生!お忙しい時にすみません!
美優ちゃんが病室から居なくなってしまいました。
30分前にスタッフが見た時は、ベッドで眠っていたのを確認していましたが、先程私が見に行った時には、点滴が抜かれていて、美優ちゃんの姿が見当たりませんでした。
今、スタッフで手分けして病棟やトイレ、非常階段を探していますが、まだ見つかっていません」

「うん、わかった。うん、そうして。俺は外を探してくるから」

そのやり取りを聞いていた救命センターのスタッフも、救急外来の出入り口や中庭を探してくれることになり、航也は包帯セットを受け取って、病院の外へ駆け出して行った。

(はぁ、はぁ、はぁ、こんな寒い中どこ行ったんだ…
今の美優の体力じゃ、そう遠くへは行けないはず…)

外はすっかり薄暗くなり、寒さが一段と厳しい。

思い当たる場所はなかったが、とりあえず2人が住むマンションに向かって走り出す…

病院からマンションに向かう1つ目の曲がり角を曲がった時だった。

歩道をトボトボ歩く小柄な子に目が止まった。

(ん?…みゆ?)

走りながら、その子に近付くと、見覚えのある灰色のカーディガンに薄ピンク色のパジャマ姿…

すぐに美優だと分かった。

「美優!」
と声を掛けると同時に、美優の体が崩れ落ち、その場に倒れた。

急いで駆け寄る。
「美優!美優!」

「ハァ、ハァ、ハァ」
美優の意識はなく、外の冷気で気管が刺激されて、すでに喘息発作を起こしていた。

点滴の刺入部からの出血は、パジャマが血で汚れてはいるが、出血は止まっているようだ。

航也はすぐに病院に連絡を入れ、美優を抱きかかえ、病院に急いだ。


(くそっ、美優…なんでこんなことに…)


処置室に運び入れると、ヘルプで来てくれた医師の協力もあって、喘息発作の方は大事に至らずに落ち着き、美優は眠っている。

そこに1人の先輩医師が話し掛けてきた。

「この子、航也の患者さん?
重積発作にならなくて良かったな。まだ高校生だから、気持ちのケアが難しいよな…
目が覚めたらしっかり本人の話聞かないと、治療もスムーズにいかなくなるからな。
もし精神科のコンサルするなら、早めの方がいいぞ」

「そうですね、ありがとうございます。目が覚めたら、まず本人の話を良く聞いてみたいと思います」

「そうだな。主治医と患者の信頼関係は外せないからな。お前もあまり頑張り過ぎるなよ?」

そう言って先輩医師は、航也の肩をポンポンと叩き、去っていった。

時計を見ると、既に自分の勤務時間は過ぎていて、今日は美優の側に付いていてあげられる。

美優の状態が落ち着いたのを見計らって、ストレッチャーで処置室から病室に移した。

美優はまだ眠っている。

航也はモニターの値をチェックしたり、点滴を調整しながら、美優が目覚めるのを待った。