«もしもし、忙しかった?»
[大丈夫だよ。桜井くんこそ、こんな時間に電話して大丈夫なの?]
«全然大丈夫、問題ないよ»
その日の夜、私は再び桜井くんと電話をしていた。電話越しに聞こえる桜井くんの声に、少しだけ耳がぞわぞわする。
[あの、桜井くん。今日は助けてくれてありがとうございました]
«あんなの助けたうちに入んねぇよ。俺が絶対奏音のこと助けるって決めてたし、お礼言われるようなことしてねぇ»
[でも、今日誰からもいじめられなかった。学園に入ってから誰にもいじめられなかったの、今日が初めて]
«そっか…もっと早く助けてやれなくてごめんな»
[ちがっ、そういう意味で言ったんじゃ…]
«大丈夫大丈夫、分かってるよ»
そう言って、桜井くんがくすくすと笑う。言葉遣いが荒くなったり優しくなったり、忙しい人だ。
«そういえば、奏音って優弥のこと苦手?»
[え、どうしてですか…?]
«なんか今日、すごい引いてたっていうか、顔が強ばってたからさ»
[苦手というか…今まで、麗奈以外の人と話すことなかったし、高橋くんもちゃんと話したのは今日が初めてだったので…]
«なるほどね。悪いやつじゃないから、少しずつ仲良くしてやって»
[はい…善処します…]
高橋くんも一軍グループだから、私が話す機会なんて絶対にないだろうけど。それに、見た目がチャラくてちょっと苦手…。
ピアスめっちゃ空いてるし、金髪だし見るからにヤンキーだもん。桜井くんもピアスめっちゃ空いてるのに、そんなにチャラいという印象はないな。髪の毛がピンクだから、そっちに目がいくのかも。
いや、髪の毛ピンクも相当チャラいか。
«奏音の髪の毛って地毛なの?»
[一応地毛だけど…変な色だよね…]
«何にも変じゃないよ。ミルクティーみたいで可愛いじゃん»
ミルクティーみたい、か。たしかに、世間的に見たらこの色はミルクティーベージュっぽい気がする。
私はこの髪色が気に入っているから、誰かに褒められると何だか照れくさい。生まれた時からこの色だから、変に意識したこともないし。
[桜井くんのピンクは染めてるの?]
«そうだよ。地毛は奏音みたいな色で、色素薄めなの»
[へぇ、桜井くんの地毛見てみたいな]
«いいよ、今写真送ったから見てみ»
そう言われてLimeを開くと、そこには私と同じミルクティーベージュっぽいのに少し色素が薄い髪の毛の桜井くんがいた。ピンクも似合ってるけど、こっちもまたかっこいい。
[そういえば、桜井くんはヤンキー…とかなの?優弥くんヤンキーっぽいし、一緒にいるからそうなのかなって…]
«あー、俺はね────»
そう言って、桜井くんは自分のことをぽつりぽつりと話し始めた。