◆ 第三章 お飾りの妃はお手柄を立てる


 路地沿いの家から突き出たランタンにぽつん、ぽつんと火が灯る。日が暮れた時間帯の路地裏は薄暗く、人の通りもまばらだった。
 質素なワンピースに身を纏ったベアトリスはひとり、路地を足早に歩く。そのとき、目の前にふたり組の男が現れた。

「こんにちは、お嬢さん」
「ご機嫌よう。先を急いでいるので、通していただいても?」
「そう言わずに、少し遊んでいこうぜ」

 中年の男はこんな時間にもかかわらず強い酒の匂いがした。
 ベアトリスは一歩後ずさる。

「助けてっ!」
「おいおい。優しくしてやるから逃げるなよ」

 ベアトリスが走り出すと、「いひひ」と嫌な笑い声と共に男達が追って来た。左手首を掴まれる。ベアトリスは必死にその手を振り払おうともがいた。

「嫌っ、離して!」
「諦めな。こんなところに助けに来る酔狂なやつはいねえよ」
「助けて、誰かっ!」

 暴れるベアトリスの肩に男が触れようとした瞬間、カチャッと音がした。男の頭に黒いものが突き付けられる。拳銃だ。

「おい。その手を離せ。それとも、ここでその空っぽの頭をぶち抜かれたいか?」

 氷のように冷たい声がした。それとほぼ同時に、ベアトリスを襲おうとしていた男は蹴り上げられて宙に体が飛ぶ。