バトラー公爵家を後にしたベアトリスは、そのまま豪奢な馬車に乗せられて王宮へと連れて行かれた。通されたのは、これまた豪華絢爛な部屋だ。広い部屋の中央には全部で三十人は座れそうな大きな長テーブルの応接セットが置かれ、そこには蝋燭が十数本立つ燭台と瑞々しい装花が置かれていた。
壁には代々のロイヤルファミリーの肖像画が飾られ、見上げる程高い天井からはシャンデリアがぶら下がっている。そして、片側一面は大きな窓になっており、そこには天鵞絨のドレープカーテンが掛けられていた。
(これは一体!?)
自分は一体なぜ、こんなところにいるのだろうか。
(昔、こんなおとぎ話を読んだことがある気がするわ)
あれは確か、貧しい少女が魔法使いの力を借りて王子様に見初められる話だった。
老婆の姿をした魔法使いに食べ物を分け与えて道案内をした少女が特別な地図を渡され、それを辿ったら倒れている若い男を見つける。少女は若者を献身的に看病するが、ある日若者は姿を消してしまう。
だがその一カ月後、若者は立派な王子の姿になって少女の目の前に現れるのだ。
そして、王子は少女を自分の住む王宮へと連れて行く──。
「あのお話、好きだったなあ」
「俺が目の前にいるというのに上の空とは、いい度胸だな。ベアトリス=コーベット」
低い声がしてハッとする。恐る恐る声のほうに目を向けると、薄紫色の瞳とバシッと目が合った。恐ろしいほどに整った見目の男がこちらを見ている。



