(こんなところ、来るんじゃなかったわ)
ブルーノは侯爵家の嫡男だ。大抵の高位貴族の舞踏会や夜会には招待されている。つまり、ベアトリスが婚活しようとそれらに参加すれば、漏れなくこのふたりに遭遇してしまうのだ。
目にじわりと涙が浮かぶ。くやしい、なんとかして言い返してやりたい。
そのとき「ああ、ここにいたのか。探したぞ」と若い男の声がした。
周囲の人々がざわっとさざめき、一歩下がる。
(え? 誰?)
ベアトリスが声の主を確認しようと振り返るより先に、腰を力強く引き寄せられる。
「ちょうどよかった。お前がいらないというなら、こいつは俺が貰おう」
「なんだ、お前──」
突然の乱入者にブルーノが剣呑な眼差しを向ける。しかし、その男を見た瞬間に表情を強ばらせた。どうやら、知っている顔のようだ。
(だから、誰?)
ベアトリスは身を捩って、自分を抱き寄せている男を見上げる。



