突然手首を掴まれる。ジャンは閉っている建物の扉に手をかざす。すると、扉は自動的に両側に開いた。
(えっ! これってもしかして魔法!?)
魔法はかつてこの世界に多く存在していたが、今では使える人間はほとんどおらず失われたものとされている。恐らく、国中を探しても魔法を使える人間は両手で数えられる程度だろう。
驚くベアトリスの手を男は引く。そして、建物の一室に連れ込んだ。
広い部屋はベアトリスの実家の私室と同じ位の大きさだった。窓の近くには大きな執務机があり、その後ろには天井まで届くようなガラス扉付きの本棚が置かれている。視線を逸らせば、三人掛けのソファーがローテーブルを挟んでふたつ置かれた応接コーナーもあった。
ジャンはベアトリスの手を離すと、そのソファーのひとつにガシンと座る。背もたれに背を預け、顎でベアトリスにも座れと促す。
「それで、どういうことか話を聞こうか?」
「どういうことかって、言った通りよ。舞踏会の日、あなたは廊下でこの封筒を落とした。だから、わたくしは親切に届けてあげたの!」
それ以上でもそれ以下でもない。ベアトリスがこれを届けたのは完全なる親切心からだ。そっちが勝手に落としたのだから別に届けなくたって、ベアトリスに非はない。



