その晩、アルフレッドは夜も更けたような時間に姿を現した。
「待たせたか?」
机に向かって翻訳作業をしていたベアトリスの手元を見て、アルフレッドは小首を傾げる。ベアトリスの手元に何枚もの原稿用紙が積まれていたからだろう。
「いえ。大丈夫です」
ベアトリスは首を左右に振る。
「そうか?」
アルフレッドは少し訝しげな表情をしたが、それ以上深く追求することもなく部屋のソファーに座る。ベアトリスもアルフレッドの隣に座った。
「ランスの件、まだまだ時間がかかっているが、ようやく片付きそうだ」
「そうですか」
ベアトリスは相づちを打つ。
「殿下、大丈夫ですか?」
「何が?」
「いえ、その──」
ベアトリスは口ごもる。
ランスはアルフレッドにとって、元々の婚約者候補の兄であり、自身の側近であり、古くから付き合いのあった最も信頼していた人物だったはずだ。そんな人に裏切られ、傷つかないはずはない。
アルフレッドは、ベアトリスの態度から考えていることを大体察したようだ。



