ベアトリスは頷く。
そもそも、王宮舞踏会で婚約破棄をするということ自体がホストである王家の顔に泥を塗る行為であり、大変な不敬だ。それに加えて、婚約破棄の相手であるベアトリスは今や対外的には王太子アルフレッドの寵妃。
ブルーノの父親であるコールマン侯爵は息子のしでかした所業に泡を食ったことだろう。
「爵位は次男に継承させると、報告があった」
「……そうですか」
貴族の家門は代々、その家で持っている爵位を男性子孫に継承させて存続する。まれにふたつ以上の爵位を持っている家門もあるが、ブルーノの実家であるコールマン侯爵家はひとつしか持っていなかったはずだ。
つまり、ブルーノはこの先、どこか跡取り息子のいない家門の貴族令嬢のもとに婿入りしない限り、貴族ではなくなる。だが、これだけのことをしでかしたブルーノを婿に迎えたいという奇特な家は現れないだろう。
(だから、今更連絡してきたのね)
自業自得とはいえ、幼い頃から彼を知っているだけに胸の内に苦いものを湧き上がる。
やるせない気持ちになり視線を伏せると、ジャンの手が伸びてきてベアトリスの片手を持ち上げた。
「どうしたのですか?」
突然片手を持ち上げられ、ベアトリスは顔を上げる。
ジャンは少しだけ身を屈ませると、その手首の内側にキスをした。
「なっ」
何をなさるのですか! と言う言葉はびっくりしすぎて最後まで出てこなかった。
「お前は俺の寵妃なのだから、他の男のことは考えるな。誰にも触れさせるな」
「え……?」



