俺様王太子に拾われた崖っぷち令嬢、お飾り側妃になる…はずが溺愛されてます!?


 王宮の庭園の一角に温室があることは知っていたが、今まで一度も入ったことがなかった。
 初めて足を踏み入れたバラ園には、色とりどりのバラが咲き乱れていた。ベアトリスは黄色のバラに顔を寄せる。ほのかにフローランスな香りが鼻孔をくすぐる。

(いい匂い)

 バラの匂いは好きだ。この香りに包まれるだけで、優雅な気分になれるから。
 まだ両親が健在だった頃、家族でバラ園に出かけたのはいい思い出だ。

「次々と花に顔を寄せて、まるでミツバチのようだな」
「だ、誰がミツバチですか!」

 人を虫に例えるだなんて!
 恥ずかしくなって顔を赤くしたベアトリスがすかさず言い返すと、ジャンはくくっと肩を揺らした。

「冗談だ。好きなだけ嗅ぐといい。ここには俺達しか来ない。王族専用だからな」

 意外なことに、その表情は優しげだった。
 いつものように意地悪な顔をしていると思っていたので、調子を狂わされる。

「先ほどのコールマン侯爵家の息子だが──」
「コールマン侯爵家の息子? ブルーノ様のことですか?」
「ああ」

 ジャンは頷く。

「王宮舞踏会で婚約破棄をしでかした上に、その理由が全て作り話。さらに、その婚約破棄の相手が今や俺の寵妃になり結果として王家からの心証を悪くした。父親である侯爵の逆鱗に触れたようだ」
「それはそうでしょうね」