──これはジャン団長に頼まれて、きみのために作ったものだから。
「最初からそう言ってくれれば、勝手に抜け出したりしなかったのに」
ベアトリスは独り言ちる。
(あの人、何を考えているのかよくわからないわ……)
けれど、決してベアトリスのことをないがしろにしているわけではないことはわかった。
◇ ◇ ◇
王宮の一室に、アルフレッドの不機嫌な声が響いた。
「どういうことだ。さすがに多すぎる」
鋭い視線の先にあるのは、一枚の報告書だ。アルフレッドの前に立つ側近──サミュエルとランス、それにカインも一様に厳しい表情をしている。
ベアトリスが勝手に城下に抜け出した事件から一カ月経ち、謹慎期間が終わったベアトリスは再び城下に出るようになった。ところが、城下に出る度に何かしらのトラブルに見舞われるのだ。
暴漢、誘拐未遂、はたまた道路沿いの花台から鉢植えが落ちてきたというものまで、そのトラブルは様々だ。ただ、〝ベアトリスが城下に出ると何かしらのトラブルが起きる〟というのは共通していて、今日は機嫌が悪い馬が暴れたところに遭遇し、危うく馬に蹴られかけたというものだった。



