「それにしても、わざわざ団長がいらっしゃることもなかったのに。我々にお任せしていただいて大丈夫でしたよ」
ランスは肩を竦め、ジャンを見てくる。姿を変えているとはいえ、王太子がほとんど供も付けずに市中をふらふらすることはあまりよくないと思ったのだろう。
「念のためだ」
「ベアトリスが姿を変えて市中に出る初めての日なので、念のためという意味ですか? カインが作った魔道具なら、何も問題なく効果を発揮すると思いますが」
「それはそうなのだが」
ランスの諫言を聞き流しながら、ジャンはベアトリスを見つめる。
(考えすぎであればいいが……)
過去に自分の婚約者候補達を襲った不幸──婚約目前に何かしらの事故が起きる事実が脳裏をよぎり、同じことがベアトリスにも起きるのではないかと、どうしても思ってしまう。
ベアトリスは既に側妃の座にいるのでこれまでの婚約者候補達とは立場が違う。そうはわかっているが、嫌な想像が拭えなかった。
視線の先にいるベアトリスはオレンジが高く積まれた露店の前に立ち、店主と何かを話していた。
店主が包丁を取りだした。
それを見たジャンはハッとして、腰に佩いた剣の柄を握って身構える。
商人は手に持った包丁で、オレンジを切り始めた。カットしたオレンジを手で絞り、コップに入れていた。



