俺様王太子に拾われた崖っぷち令嬢、お飾り側妃になる…はずが溺愛されてます!?

 見上げると、目の前にはひとりの男性がいた。緩くうねる短い黒髪は無造作に掻き上げられており、その黒髪の合間から覗く瞳も髪と同じ黒。
 きりっとした目元が印象的な、凜々しい雰囲気男性だった。

 羨ましいほどに整った見目は、王宮内の庭園のところどころに飾られている彫刻を思わせる。黒い騎士服を着て腰に剣を佩いているところから察するに、どこかの騎士なのだろう。

「申し訳ございません。前をよく見ていなくって」
「いや、こちらこそ悪かった。俺も考え事をしていて前をよく見ていなかった」

 男性は、ベアトリスの手をぎゅっと握ると、力強く体を引き起こす。

「怪我はないか?」
「大丈夫です」
「しかし、目に涙が浮かんでいる」

 眉を寄せた騎士は、心配そうにベアトリスの顔をのぞき込んでいる。

「涙?」

 そこで初めて、ベアトリスは自分の目に涙が浮かんでいることに気付いた。
 婚約破棄されたことがショックなんじゃない。信じていた人達に裏切られたのがショックだった。
 ブルーノは幼いときからの婚約者で、恋情はなくとも親しみはあった。それに、ローラのことも友人として好きだった。