王宮の入り口からは城下へ行くための乗り合いバスが出ている。列に並びながら王太子妃だとバレるのではないかと内心ひやひやしていたベアトリスだったが、拍子抜けするほど周囲は気がつかない。
(ふふっ)
自分だけ知っている秘密ができたような気がして、なんだが楽しくなってくる。
バスに揺られること十分ほどで、城下の中心街に到着した。ベアトリスは馬車を降りると、通い慣れたメインストリートを通って本屋へと向かった。
本屋の入り口を開けると、店主をしている初老の男性が椅子に座って本を眺めているのが見えた。
「ご機嫌よう」
「いらっしゃい。……おや、初めてのお客さんだね」
ベアトリスの声に顔を上げた店主は、人のよい笑みを浮かべる。
初めてどころか、以前は毎週のように通っていた常連だけれど、ベアトリスは「ええ。表から見えたので」と無難な答えを返す。
「どうぞごゆっくり」
店主はそう言うと、目尻の皺を深くした。



