「すごいわ。本当に、わたくしだって気付かれないのね!」
ここ最近、誰かしらの貴族に遭遇するたびに『ベアトリス妃殿下!』とすり寄られてこびを売られ、うんざりしていた。世の中の皆が自分を知らないというのはこんなに開放感があることだったなんて。
ベアトリスは両手を空に向かって大きく伸ばし、深呼吸する。今なら、どこにだって行けるような気がした。
「このまま本屋さんに行っちゃおうかしら」
毎日くたくたになるまで頑張っているのだから、少しぐらい羽を伸ばしても許されるはず。
ベアトリスはそう決めると、軽やかに歩き出した。



