王妃であるシセルとは何度が対面したことがある。ただ、いつも王宮舞踏会の会場や謁見室など公式な場所ばかりだったので儀礼的な会話しか交わしたことがなく、こんなに気さくな人だとは思っていなかった。
「こうしてベアトリス様とお話ができて本当に嬉しいわ。ほら、息子はこれまで、婚約者候補の皆さんが全員あんなことになっているでしょう?」
(あんなこと?)
シセルがふと漏らした言葉に引っかかりを覚えた。
以前にも、これと似た言葉を聞いた記憶がある。
マーガレットが連れていた姪、それに、マーガレットや王宮舞踏会で挨拶したベントン卿からだ。
「シセル様。〝あんなこと〟ってなんですか?」
ベアトリスはおずおずと、シセルに聞き返す。すると、シセルは瞠目した。
「え? あら、ベアトリス様はもしかしてご存じない? 余計なことを言ってしまったわ」
シセルはしまったとばかりに口元を抑える。
「いえ。ただ、他の方からも同じような話を聞いて気になっているのです」
「そう。確かにこの件は、一部の側近を除いて公にはされていないものね。わたくしはてっきり、ベアトリスさんは息子から話を聞いていて、ふたりで相談して口裏を合わせてあんなことをしたのかと思っていたわ」
「あんなこと?」
「アルフレッドがベイカー公爵家の舞踏会に趣き、公衆面前でベアトリス様に求愛したとか」
思わずブーッと紅茶を吹きそうになった。耐えた自分は相当偉いと思う。
「あの子はこれまで、婚約目前まで進んだご令嬢が全員不幸に見舞われているのよ。全部で三人」
「え?」
シセルが続けた話に、ベアトリスは絶句する。
「毎回、婚約を発表するための手続きに入り始める頃に何かしらが起きてしまって……。四人目も同じことが起きるんじゃないかってみんなが心配していたのだけど、ベアトリス様に関しては婚約目前も何も、何の前触れもなく突然あの子が求愛したから──」



