「残念ですよ、ベアトリス妃殿下。アルフレッド殿下の婚約者候補はいつもあんなことになってしまうから、ようやく娶れた妃だったのに──」
(……あんなこと?)
あんなこととはどんなことだろうか。聞き返そうとしたが、喉がかすれて声が出ない。
「助けて……」
かすれた声は、外には届かないだろう。
(サミュエル様、カイン様、ランス様……。ジャン団長!)
いつも不敵な笑みを浮かべて偉そうな態度を取るジャンの顔が脳裏に浮かぶ。
(錦鷹団の補佐官なんて面倒ごとを押しつけるきっかけを作った張本人なんだから、さっさと助けに来てよね!)
ベアトリスは心の中で助けを呼ぶ。
そのとき、バシンと扉を開け放つ大きな音がした。
「俺はお前に何かの権利を与えた記憶はないぞ? バロー伯爵」
凜とした声が、はっきりと部屋の中に響く。
バロー伯爵は突然の訪問者に驚いたように背後を振り返った。ベアトリスも扉の方を見る。
(ジャン団長?)
黒い髪に鋭さのある紫色の瞳。腰に剣を佩いたその人は、錦鷹団の団長であるジャン=アマールその人だった。背後には、団員であるサミュエルやカインの姿もある。



