何をやっているの?という台詞は最後まで言えなかった。バロー伯爵が突然、勢いよくベアトリスに飛びかかってきたから。
「きゃあ!」
ベアトリスは驚いて叫ぶ。ぐいっと腕を伸ばされ、先ほどの液体を拭ったハンカチで口と鼻を覆われた。
すんと香るのは、刺激のある香りだった。咄嗟に後ろに下がろうとしたベアトリスの足元がふらつく。
(これ、何かの薬?)
──これは非常によくない状況である。
本能的にそう感じた。今嗅がされたのは恐らく、意識を朦朧とさせる薬の一種だ。
(逃げないと)
ここにいると危険だ。
部屋の出口に向かおうと身を捩るが、体が言うことを聞かない。
「これはベアトリス妃殿下。体調でも壊されましたか? 安心してください。私が介抱して差し上げます」
バロー伯爵はいやらしい笑みを浮かべ性懲りもなくそう言い放った
「あなたが全部やったのね。違法な希少動物の輸入も、人身販売も。アルフレッド殿下の許可証を偽造したのね」
「何を仰いますか。ベアトリス妃殿下は体調不良で混乱されていらっしゃるのですね。私はアルフレッド殿下から、これらに関することの全権を任されておりました」
「嘘っ!」
「嘘ではありません。ベアトリス妃殿下。あまり興奮されてはお体に触ります。少しお休みください」
バロー伯爵の手がベアトリスのほうに伸びる。



