「では、この件について早急に調査してほしいの。このような噂が出回ったからには、何かしらの原因があるはずよ。火のない所に煙は立たないの」
「かしこまりました」
バロー伯爵はポケットから白いハンカチを取り出すと、額に浮かんだ汗を拭う。その態度に、ピンときた。
(彼、多分何か知っているわね)
もしバロー伯爵家が無関係だったとしても、領主であるバロー伯爵がこの件について調べ始めれば犯人は王都騎士団が何かしらの情報を持っているのかと焦り、きっと動きを見せるはず。
そう思ってここに突撃したのだけれど、バロー伯爵のこの態度は思わぬ収穫だ。
(人身販売の首謀者に心当たりがある?)
あるいは彼自身に後ろめたいことがあるのだろうか。
いずれにせよ、バロー伯爵はすぐに何かしらの動きを見せるだろう。
「わたくしがバロー卿とお話ししたかったのは、その件についてよ。では、ごきげんよう」
「はい。お気を付けて」
ベアトリスはひらひらと手を振ると、くるりと体の向きを変えて歩き出す。背中に、バロー伯爵からの視線を痛いほどに感じた。
ベアトリスは足早に歩き、錦鷹団の事務所がある離宮に戻った。
事務所内では、カインとサミュエルがちょうど何かを話し込んでいるところだった。
「あ、ちょうどよかった。カインさん、サミュエルさん」
「ベアトリス。どうかした?」
サミュエルが顔を上げ、不思議そうにこちらを見る。



