俺様王太子に拾われた崖っぷち令嬢、お飾り側妃になる…はずが溺愛されてます!?


(もしかして、マルカン地方の人が事件に関与している?)

 妃教育の一環で覚えた情報では、マルカン地方を治めているのはバロー伯爵家だ。領地にはこれと言った特産物がなく、シュタルツ国との物流の拠点が領地にあることが収入の大部分を占めていたと記憶している。
 現当主であるバロー伯爵に舞踏会で挨拶をしたことがあるが、どこか傲慢さ滲み出る、小太りの男だった。

(……直接会って、確認してみようかしら?)

 バロー伯爵は領地経営を息子に任せ、自身は王宮内の運輸局長をしていたはず。

(そうと決めたら、善は急げ! 確か、運輸局の局長室はあっち──)

 ベアトリスは記憶を頼りに、バロー伯爵の執務室へと向かった。廊下を歩き、いくつか並んだドアのひとつの前で立ち止まる。

「ごきげんよう」

 トントントンと勢いよくドアをノックする。「誰だ?」と部屋の中から声がした。在室のようだ。

「ベアトリス=コーベットでございます。少しよろしいでしょうか?」
「ベ、ベアトリス妃!?」

 慌てて立ち上がったのか、部屋の中でガタンと音がした。ドタドタという足音がして、ドアが勢いよく開く。

「これはいかがなされました、ベアトリス妃?」

 目の前の男──バロー伯爵は驚いたような顔をしており、以前舞踏会の際に垣間見られた傲慢さは、今はない。ベアトリスの〝アルフレッドの寵妃〟という肩書きが効いているようだ。
 ベアトリスはバロー伯爵の肩越しに、部屋の中をざっと見回す。他に人はいなそうだ。