*
「水谷くんと朝乃さんですか……なかなか面白いですね」
ものすごい勢いで駆け出した背中を見つめながら、数学教師……田中は小さく息を吐いた。
ふと床に落ちた視線の先、小さな紙切れ。
拾い上げてみると、それはキャラクター設定のメモだった。
「朝乃さん、これ落としましたよ……って、ただ戻ってきただけですね」
丁寧に畳んで、ポケットにしまい込む。
(気づくのはいつになるんでしょうね。鋭いようで鈍いんですから)
「それにしても危なかった。発売日はまだなんだから、持ち歩くものではないですね。気をつけないと」
どうか良い青春を、と二人の未来に思いを馳せ、田中は"見本誌"と呼ばれるそれを大切そうに腕に抱えた。



