推し作家様、連載中につき。


 あはは、と笑う水谷くんと一緒に教室を出て、廊下を曲がると。


 桜色の風とともに、ドンっと肩に走る衝撃。



「うわ……っ!」



 思わず尻もちをついてしまった。


 普通、ここは水谷くんの出番じゃないのか。


 曲がり角で誰かとぶつかるという、これまた物語らしいあるあるシチュエーション。


そこを颯爽と助ける王子様ポジでしょ君は!

……いや、ないか。



「すみません」



ぶつかった拍子に床に落ちたのは、一冊の文庫本。


カバーがかけられていて表紙は見えなかったけれど、扉の部分にあった題名と作者名に、逃せない文字が並んでいた。



「え……!? 名高先生のデビュー本?! まってもう出てるの、うっそでしょ!?」



 オタクとして失格だ。


 発売日を見誤っていたのだろうか。



「大切な御本を本当にすみません! もし汚れたり折れたりしてたら弁償しますんで!!」



 ガバッと顔を上げた先、あったのは塩顔フェイス。